菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜千里の道も一歩から〜

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神奈川県議会議員菅原直敏の議会報告のブログです。神奈川県大和市選出。無所属。

第5章 制度の廃止 3.国民負担は1兆円では済まない

3.国民負担は1兆円では済まない

国民の負担は一体いくら

 第二の制度廃止理由は、国民負担の増大である。地方議会議員年金制度検討会の試算によると、制度を廃止した場合の国民負担は約1.3兆円である。これに対して、同会の試算の最も厳しい試算(A 案)によると、制度を維持した場合の平成23年度から平成43年度までの国民負担は約5500億円となる。こうして見ると、少なくとも今後20年間だけをとってみれば、制度を継続した方が、国民負担が少ないようにも見える。

 しかし、ここには大きな落とし穴が存在する。制度廃止の場合の試算は、既得権者の利益に相当配慮した場合の試算であり、言わば国民負担の最大値である。一方、後者の場合は議員に対しても相当厳しい条件の場合の試算であり、実際に市町村議会議長会は反対している。つまり、5500億円という試算は国民負担の最小値である。

 今まで政府関係機関が提示した試算が正確だったことは一度もない。そして、この試算にも同じことが当てはまる。以下、試算に関わる2つの問題点を指摘する。

人口及び自治体財政の動向

 第一の問題点は、人口や自治体財政の動向を的確に考慮していない点である。

 まず、地方議会議員年金制度検討会が示した都道府県議会の会員数の試算についてであるが、平成20年度の議員定数が2,749人であるのに対して平成43年度の議員定数を2,495人と試算している。20年間で概ね9%の減少率である。検討会はこの試算の前提条件として、「過去10年の統一地方選挙ごとに平均で▲33人定数が減少(H11:▲30人、H15:▲36人、H19は合併の影響が強く考慮せず)していること(43)」であるとしている。しかし、この試算には大切な前提条件が見落とされている。平成11年及び平成15年時点では、日本の総人口は増加していたという前提条件である。平成17年、日本は戦後初めて人口減少に転じた。平成17年以前にも各県を個別にみれば人口減少は生じていたが、今後は段階的に全ての都道府県が人口減少に転じるようになる(44)。従って、平成11年と平成15年の定数減少率の平均値である33名よりもさらに多くの会員数が減少していくと見込まなければならない。

そこで、法律による上限数等は考慮せず、純粋な人口比例で会員数を試算する。日本の将来推計人口(45)によると死亡中位・出生中位の場合、平成20年から平成42年までの人口減少率割合が10%程度である。この場合、平成43年度の会員数は2,463人であり、共済会の試算とほぼ一致する。しかし、死亡高位・出生低位の場合、平成43年度までの人口減少割合は13%以上で、平成43年度の会員数の見込みは2,380人となり、共済会との誤差は115人となる。この場合試算より5%近い収入不足が出ることになる。試算に関しては常に最も厳しい状況も想定する必要があることから、会員数についての試算は検討会の試算よりも減少する可能性がある。なお、市町村議会の試算については母体数も多く、後述するような理由から試算は不可能である。

次に、報酬についてである。平成23年から平成43年までの20年間における検討会の試算では、都道県議会議員の平均報酬月額は62万のままであり、市町村議会議員の平均報酬月額は、35.6万円から34.7万円と2%程度の減少を見込んでいる。

しかし、総務省の発表した『地方公務員の給与の実態』によると、平成13年度から平成20年度までの7年間で、都道県議会議員の平均月額報酬は6%程度、市町村議会議員の平均月額報酬は5%程度減少している。この点を勘案すると、市町村議会議員の報酬の減少率が20年間で2%というのは低く見積もりすぎである。地方自治体の財政が厳しくなり人口も減少する中、地方議会議員の報酬の引下げは相当額まで進むと考えられるからである。

また、都道府県議会の場合、「現在すべての団体の報酬が標準報酬である62万円を上回っており、今後も62万円で一定と(46)」見込んでいる。しかし、現在47都道府県議会で報酬額が最低である島根県議会の報酬月額は65.4万円である。島根県は今後20年間で2割近い人口が減少する推計となっており(47)、標準報酬月額が62万円を下回る可能性は十分にある。これは、現在報酬月額が70万円前後の他の自治体にも同じことは当てはまる。さらに、月額報酬が標準報酬月額の上限値を下回らない場合であっても、報酬月額の引き下げは期末手当の減少になり、結果として期末手当に一律に課されている特別掛金収入の減少となる。この点は共済会の試算には見込まれていない。このように検討会の試算は大きな誤りを犯す可能性がある。

(43)地方議会議員年金制度検討会『資料3 財政見通しについて』「財政見通しの前提条件についての考え方」平成21年5月29日

(44)国立社会保障・人口問題研究所『日本の都道府県別将来推計人口』(平成19年5月推計)によると、人口減少県の数は32(H17)→40(H22)→42(H27)→45(H32)→46(H37)→47(H42)と推移する予測となっている。

(45)国立社会保障・人口問題研究所『日本の都道府県別将来推計人口』(平成19年5月推計)

(46)地方議会議員年金制度検討会『資料3 財政見通しについて』「財政見通しの前提条件についての考え方」平成21年5月29日

(47)国立社会保障・人口問題研究所『日本の都道府県別将来推計人口』(平成19年5月推計)

地方分権の傾向

 第二の問題点は、今後の地方分権の動きをまったく加味していない点である。この点は最も重要である。

 検討会の試算は、地方自治法による画一的な地方自治制度が今後も継続することを前提としている。日本の地方自治体は、人口を中心とした自治体の規模で議員の定数や待遇が横並びに定まってきた。もちろん、条例でそれらを逸脱することは可能であるが、それは財政が破綻する等特殊な事情が起きた場合の例外的措置であり、総じて一律的であることが統計的にも確認できる。

 確かに、このような画一的な地方自治制度が、他の先進諸国では見られない全国一律の地方議会議員年金制度の導入を可能にしてきたわけであるが、今後この前提条件が続くと考えられない。「地域のことは地域住民が決める」という地域主権を実現するためには、地方自治法の抜本的な見直しが不可欠であり、既存の地方自治制度は確実に変更を余儀なくされるからである。また、道州制地方自治体の枠組みを根本から変更する主張も根強く存在する。更に、平成21年12月14日の第1回地域主権戦略会議(内閣府)において、地方自治法の抜本的改正及び「地方政府基本法」の制定が工程表に盛り込まれた。このような傾向を考慮する限り、現行の地方自治制度は、今後どのような形になるかは予測できないにせよ、大きく変更されると考えるのが順当であろう。

 例えば、福島県矢祭町議会のように日当制を採用する議会も増えるかもしれない。また、二元代表制ではなく英国の地方議会でよくみられる議院内閣制を採用する自治体もあるかもしれない。米国の地方議会のように少数の議員で議会運営をする自治体も出てくるだろう。さらに、地方自治体の枠組み変更の中で都道府県が消滅してしまうかもしれない。地方分権社会における住民自治の可能性は尽きない。

 ところが、このような自治体の多様性に対して、地方議会議員年金制度はただただ無力である。平成の大合併は自治体の数は変わったが、地方自治制度の中身は変わらなかった。それでも、現行の制度は対応できずに激変緩和措置という公費負担の議論をせざるを得なくなっている。21世紀の地方分権改革は自治体の数だけでなく、地方自治制度の中身も大きく変容させる。このような地方分権改革の影響は、検討会の試算にはまったく考慮されていない。制度を継続しこのような事態が起きた場合、再び不測の事態として激変緩和措置という名の公費負担を国民に求めていくのであろうか。

現時点で廃止する方が公費負担は少ない

 今後の地方議会議員年金制度の試算をすることは不可能である。なぜなら、その試算が可能であるためには、今後の分権社会における自治体像を的確に予測しなければならないからである。そして、この地方分権改革は、年金財政に負の影響をもたらすことはあっても正の影響をもたらすことがないことは確実である。

 将来の自治体像があまりに多様すぎて、筆者自身も制度を継続することによる国民負担額を予測することはできないが、唯一つ言えることは、制度を継続することで1兆円を遥かに超える国民負担が今後20年の内に生じるということである。