菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜千里の道も一歩から〜

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神奈川県議会議員菅原直敏の議会報告のブログです。神奈川県大和市選出。無所属。

公共交通情報共有のグローバルリーダー〜ソウル市の合理的交通システム

ソウル市の合理的交通システム

 

ソウル市役所を訪問し、合理的交通システムなどについて調査をしました。

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1.沿革:合理的な交通システムを掲げて

 

ソウル市では、合理的な交通システムの構築を掲げ、交通施策にITSの導入を開始しました。具体的には、交通混雑をなくし、利便性を高め、スマートロード、便利な公共交通、科学的および自動交通システムの構築を目指すものです。

 

最初の導入は1998年。ナムサンエリアの10.6kmの道路に始まり、2000年の都市高速道路への導入を皮切りに、高度な交通マネジメントシステムの実施されてきました。

 

主な内容としては、総合的な交通マネジメントシステム、リアルタイムバス情報システム、公共交通情報の共有、無人監視システムなどがあげられます。

 

 

2.事例1:交通情報のデータ化と公共交通の最適運行

 

ソウル市では、交通にかかるあらゆる情報をデータとして取得しています。取得データの内容は、渋滞情報や交通事故状況といった基本的なものから、市内を走る全ての車の平均速度、バスやタクシーの運行状況や空席状況まで様々です。データの取得方法としては、監視カメラ(817台)、GPS・衛星、IOTデバイスなど様々です。これらをSNSやウェブページなどを通じて、リアルタイムで情報発信しています。

 

これらの取得データを24時間リアルタイムでモニタリングすることで、様々な便益が市民にもたらされます。

 

最も便益が高いと感じたのは、リアルタイムのバスマネジメントシステムです。市内に走る約8,000台のバスの運行状況をGPSによって把握しており、市民はその状況をウェブ通じて知ることができます。また、バス同士の運行間隔もマネジメントしたり、突発的な事故が発生した場合には、最適な迂回路を選択するなど、柔軟な運行を可能にしています。さらに、バスの乗車率も見える化されています。

 

運営側も利用者側もバスの運行状況を把握できることで、バスの運行の最適化が図られています。また、地下鉄やタクシーの運行情報もオンタイムで取得しているので、これらの情報を統合することで、総合的な交通情報の提供も可能です。

 

リアルタイムバス公共交通情報サービスの正確度は95%、市民満足度は96%と非常に高い値となっています。

 

さらに、これらの情報をオープンデータ化、オープンAPI化することで、市民らがバスの運行状況を確認するアプリを作ったり、民間へのビジネス機会を創出したり、行政体だけはできなサービス向上につなげている点も特筆です。

 

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写真:リアルタイムで、バスの乗降客数まで把握できる

 

 

 

3.事例2:最良の無人交通取り締まりシステム

 

ソウル市では、違法駐車やバス優先道路の取り締まり強化のために、308台の監視カメラを設置しています。また、公共バスにも車載カメラが設置されており、全ての営業路線に置いて違法駐車などを取り締まっています。

 

具体的には、カメラが駐車禁止ゾーンに停車した車を発見すると、5分で違法駐車として取締ります。ナンバープレートから車の所有者を自動的に割り出し、罰金請求書を自動的に郵送します。最終的な料金通知が車両所有者に届くまでの日数は、従来が2週間程度であったのに対し、このシステムではせいぜい3日とのことでした。しかも、全てのプロセスが無人化されています。

 

このシステムは、ソウル市内でも特に取り締まりを強化しなければならない重点箇所に導入されており、その他は人による取り締まりも行なっているとのことでした。

 

日本では、交通取り締まりは警察の仕事であり、駐車違反の取り締まり業務は民間に委託されたりしていますが、甚大な労力が警察の本来業務を圧迫するだけでなく、取締自体にムラがあり、不公平である点も指摘されています。

 

ソウル市の無人取り締まりシステムは、情報の取り方次第では、スピード違反など、他の交通違反にも援用できるため、非常に汎用性の高いと考えます。

 

 

4.事例3:交通の最適化に貢献するスマート計算システム

 

ソウル市では、スマートカードシステムとして、ICカードによる支払いが公共交通(バス、地下鉄、タクシー)で可能です。このカードは電子通貨の機能も果たしていて、コンビニエンスストアやオンラインショッピングなど生活のあらゆる支払いでも使えるようになっています。日本の交通系のプリペイドカードと似ていますが、罰金、税金、税金控除のための利用履歴の供給など、より守備範囲が広い点で、利便性が高そうだと感じました。

 

また、このカードがあることによって、総距離に基づく運賃制度と無料乗り換え制度を実現しています。例えば、10kmの範囲であれば、バスと地下鉄を何度乗り継いでも、料金はその距離の分しか請求されない形になります。このような総距離に基づく運賃制度は、市民の移動のあり方に大きな影響を与えます。また、料金の変更なども柔軟に行うことが可能です。

 

さらに、これらのICカードによって得られたバスや地下鉄の乗降場所、乗車時間、移動距離などの情報は、匿名化され、ビッグデータとして活用されます。例えば、バス停の乗降者数のデータはバス停の改廃を検討する際に非常に有効なデータとなります。

 

 

5.考察:ソウル市での調査を通じて

 

以上、ソウル市のITによる合理的な交通システムについて概説しましたが、個々の技術だけを見れば、高度な技術を用いているわけではありません。どのようなシステムにするかは別にして、このようなITによる交通システムの最適化は日本においてこそ進めていくべきであるとも考えます。

 

しかし、いくつかの点で乗り越えなければならない課題があります。ソウル市との比較において、その課題を検討し、日本における導入の可能性やソウル市の取り組みから学ぶことについて考察します。

 

 

・行政・議会関係者の意識のレベル

 

最も大きな導入の障壁は、行政・議会関係者の意識のレベルだと考えます。

 

API、ビッグデータなど、ITに関わる検討をするために重要なことは、これらの技術の本質的な理解です。しかし、これらの技術について本質的な理解を持っている行政・議会関係者は依然として少ないと感じています。

 

例えば、神奈川県くらい規模の大きな自治体であっても、ストレスを感じることなく、これらの分野の意見交換をできる職員は多くないと、日々の議会活動におけるやり取りで確認しています。おそらく、ソウル市のように、あるセクションの全ての職員がこれらの技術を理解し、業務請負を行うといった組織は日本の行政体の中では非常に少ないのではないでしょうか。さらに、議会関係者の中には、これらの技術に対しての誤認をしている人もおり、むしろ議論をミスリードする人もいます。

 

個々の行政・議会関係者をみると、これらの議論を行える人たちはいますが、もう少し層を厚くしていかないといけないと日々感じています。

 

あとは、危機感の欠如も深刻であると捉えています。おそらく、危機感の欠如が、これらの技術の理解や活用が日本において進まない理由かもしれません。

 

・公共交通運営主体の協業の難しさ

 

第二の導入の障壁は、利害関係者の多さだと考えます。

 

例えば、東京周辺でソウル市と同様のことを実施すると仮定しましょう。東京の交通システムは東京都だけで完結するものではないため、神奈川県、千葉県、埼玉県が広域行政体として関係が出てきます。また、横浜市、川崎市のように自前の公共交通を持つ政令指定都市も関係してきます。

 

また、公共交通の運営母体も様々です。民間私鉄、JR、東京メトロ、自治体営地下鉄、バス会社、タクシー会社などがあげられます。

 

これらの多様な主体の利害を誰が中心となって調整し、統合的に運用してくのかという点は、技術的な課題よりもはるかに難しい課題です。

 

・ソウル市の取り組みから学ぶべきこと

 

 

データの取得、分析、活用の仕方は、ソウル市から学ぶべき点は非常に多いと、今回の調査で感じました。

 

まず、データの取得については、市民にとって利便性の高い合理的な交通システムをつくるというヴィジョンを掲げ、それに向けたデータをいかに効率的に取得してくかという点が大変参考になると思います。

 

次に、データの分析については、施策の効果検証だけでなく、次なる施策の展開を視野に入れた分析を行っていました。ともすると理論より感性が優先されがちな政策の優先順位づけに、データ分析を加えることで、合理的な政策形成を行うことができるのは強みです。

 

最後に、データの活用については、以下の3つの視点が大切だと考えます。

 

第一は、オープンデータの視点です。取得したデータを広く一般に公開することで、民間におけるイノベーションや経済活性化に一役買っています。様々なアプリや起業がこれらのデータを活用して生まれていることからもその点は明らかです。

 

第二は、分野を跨いだ総合的なデータ活用の視点です。実はこれらの交通にかかるデータは、災害対策、防犯対策、テロ対策、交通事故対策など様々な行政分野にも援用可能ですし、実際ソウル市ではそのような活用の取り組みを進めています。このような視点があることで、得られた情報に対して様々な意味づけがなされ、効率的かつ効果的に活用されています。

 

第三は、営業的視点です。ソウル市の交通システムは、世界の国々に輸出されています。部分的にカスタマイズされた形にしていますが、主だったところでも、北京市(中国)、ウランバートル市(モンゴル)、クアラルンプール市(マレーシア)、ウェリントン市(ニュージ—ランド)、バンコク市(タイ)など多岐に渡ります。

 

市民のためになるだけでなく、行政の効率化にも寄与し、民間経済の活性化、ひいては外貨稼ぎにまで至るデータ活用は、お見事と言うしかありません。

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写真:輸出された国々